短編の名手として知られるサキは、1870年生まれのイギリスの作家。
怪奇的、シニカル、貴族的な作風で、びっくりするような結末で魅せる作品が多い。文章も構成もよく練られていて完成度が高い。
この「アン夫人の沈黙」も、ちょっと弱気な旦那を主人公にしたどこにでもある夫婦喧嘩の話と思って読んでいると、ラストで「えっ!」と驚かされることになる。とはいっても、それほど驚いたわけではないが。
約一世紀前に書かれた話であり、当時はこういう予想の裏切り方は斬新で人気だったのだろう。まあ、ブラックユーモアが炸裂している。この小さくまとまった感じとオチの付け方に、モーパッサン、オー・ヘンリー、サマセット・モームといった19世紀後半に生まれた作家たちに共通したスタイルを感じる。
古典に対して、今読んで面白いか否かを語っても仕方ない。当時としてはかなり魅力的な娯楽(?)であり、巷の話題になっていたのだろう。オカルトへの恐怖心や、シニカルな人へのイメージも、今とはまるで違っていたはずだ。フィジカル、リアリズムが好きな私にはフィットしない作風ではあるが、こういう世界を知っておくのも大事なことに思える。