タイトル、テイスト、ストーリー、ダイアローグ、エンディングまで、紛れもなくハルキワールドという感じ。穏やかで柔らかなファンタジーで、安心して読むことができる。
筋はとてもシンプル。
月曜日の朝、彼女(妻?)と二人で客より動物の方が多い人気のない動物園へカンガルーの赤ん坊を見物しにいく、というもの。二人は、カンガルーの赤ん坊を見物しにいくのに相応しい朝の到来を待っていた。そして、やっとその日がやってきた。カンガルー日和である。実際に目にしたカンガルーの赤ん坊は思っていた以上に大きく、少しガッカリする。父親カンガルーは、才能が涸れ尽きてしまった作曲家のように餌箱の中をじっと見つめ続けるばかり。赤ん坊が母親のお腹の袋に入る姿を見ることはできた。もう一頭、母親ではないミステリアスな雌カンガルーがおり、柵の中で跳躍を繰り返していた。
といったちょっと不思議な味わいをもつ淡々とした短編だ。
この短編の舞台は、1982年に閉園した千葉県習志野の谷津遊園らしい。谷津遊園は潮干狩りや海水浴ができる海辺の遊園地として人気があった。近くに船橋ヘルスセンターという総合レジャー施設もあり、こちらも人気で…(長くなりそうなのでカット)
この短編を読んで、村上春樹が大の動物好きでカンガルーの小説を書きたかった、と解釈する読者はまずいないだろう。四匹のカンガルーはメタファーであり、読者は答え探しをしながら読書することになる。
読後、ネット上のレビューをいろいろ読んでみた。現代文の教科書にも掲載された短編であるためか、平和な解釈が比較的多い気がした。著者本人は「若い夫婦のなにげない日常」と語っているので、その言葉をそのまま受け取れば、裏の意味はないちょっとしたスケッチであるのかもしれない。
「考えながら読んでいたら訳がわからなくて嫌になった」「理解できないことが歯がゆい」といった否定的な声も割とあり、逆に「何も考えずに読めば楽める」「面白いか面白くないか、それだけで充分」「答えなどないので好きに読めばいい」といった村上春樹の楽しみ方と呼べるような好意的な意見も多く見られた。
私の率直な意見は、「雰囲気は心地好かったが、意味は正直よくわからない」という感じで、75点というところだろうか。 偉そうに点数をつけてしまった、、、スミマセン!!!