私は知らなかったのだが、台湾の呉明益(1971年生まれ、ゴ メイエキと読むそう)は、連作短編集「歩道橋の魔術師」で注目されている国際的にも評価の高い作家であるそうだ。かなりインテリなようで、想像に頼らず学術への理解をベースに小説を書く時代みたいなことを言っていたりもする。(ネットで拾い読みしただけなので解釈を間違っていたらごめんなさい) 又吉直樹氏もこの短編集をアメトークで紹介していたそう。
で、この短編集の表題作である「歩道橋の魔術師」は、台北の中華商場を舞台にしている。(他の作品も然り)
説明するまでもないが、台北は台湾最大の都市(事実上の首都)である。
中華商場は物売りが約1kmに渡って立ち並ぶカオスのようなショッピングモールで、日本でいうなら築地とか秋葉原などのような喧噪と活気に充ち満ちた場所ではないかと思う。ちょっと違う気もするが。こういう場所が私は好きなので行ってみたいが、残念ながら時代の流れに逆らえず92年に解体されたそうだ。
ある種の猥雑さや雑多性が中華商場の魅力であったと思うが、そうした場所は遅かれ早かれ、解体され、整備され、跡形もなく消えていく運命にある。大資本が入り、便利で何でも手に入るが個性のない町に作り変えられてしまうのだ。(誰かが儲かり、子どもや俗っぽい大人は喜ぶのだろうが、失ったものは大きい…)
この短編の主人公は、全8棟ある中華商場の、棟と棟のつなぐ歩道橋でもの売りをする少年。すぐ前で手品を実演するミステリアスな男との交流が描かれている。大きな事件が起きるわけでなく、ちょっとファンタジックな日常の記憶という感じ。トンマナは暖かい。中高年の日本人にとってはどこか昭和の風情と重なり、ノスタルジックな思いを抱く方も多いのではないだろうか。
今はもう記憶の中にしか存在しないあの喧噪。やさしく蘇る記憶。切ない喪失感。読後感としてはほろ苦く、愛おしい。もう少し抉ってもいいのでは?と思う部分もあったが、これはこれでいいのかも。ガツンとしたインパクトやヒリヒリする過激さを求める輩には物足りないかもしれないが、インパクトや過激さが前面に出ているものは破壊的で不毛であることが多いので、近づかない方が良い。辛いものが大好きで、やたらと唐辛子やタバスコをかける人がいるでしょ。あれは舌が馬鹿になるし、脳にも悪い。(エビデンスを提示しろと言われそうだが、そもそもいい加減なブログということでお許しいただきたい)
いつものことだが、書いているうちに話が逸れてしまう。辛いものの例えは、わかりにくいし、要らなかったね。今回はここらでやめておきます。