「善良なライオン」 アーネスト・ヘミングウェイ

「善良なライオン」 アーネスト・ヘミングウェイ

めちゃくちゃに誤解されまくっている悲劇の短編だ。

「善良なライオン」は、1951年に雑誌HOLIDAYに発表された。子供向けの寓話スタイルで書かれている。その子供とは、ヘミングウェイが入れあげた18歳の娘アドリアーニの幼い甥っ子であることはよく知られている。雑誌に掲載された時にはイラストが挿入されており、絵本のような見せ方だったらしい。とは言っても、HOLIDAYは子供が読むような雑誌ではまったくない。「善良なライオン」は、リッチで気取った男たちに向けて書かれた、寓話の形式を採った辛辣な短編である。

この短編について、「心の綺麗な善良なライオンが、邪悪なライオンの群れを離れて幸せに暮らしましたとさ」的な解説をしているサイトが多いが、本当に読んだのかと首を傾げてしまう。大らかなパパ・ヘミングウェイによる子どもたちへの素敵なプレゼント、みたいな捉え方が的外れであることは普通に読めば誰でもわかる。私が深い洞察力を持っているとはまったく思わないが、先入観だけでものごとを判断する人が多いことに少し驚いている。

なんだか好戦的になってしまった・・・。

「善良なライオン」の原題はThe Good Lion。このgoodはそのまま善良とか優秀とかではなく、「立派なライオンだこと」のようなアイロニーたっぷりの表現だろう。

物語を要約するなら、「翼の生えたパスタ好きの西洋偏重ライオンが、肉と血を好むアフリカのライオンたちを見下す話」だ。差別的態度をとる高慢ちきなGood Lionはヘミングウェイ自身である。最後の方でゴ ードン・ジンやらドライ・マティーニといった名詞が出てくるが、これはヘミングウェイ自身が好んだ酒であり、翼の生えたライオンに自らを重ねていることが読み取れる。

ヘミングウェイはこの短編を通して、尊大な態度で人を卑下する自分たち西洋人を客観視し、痛烈に非難している。「文化的な俺たちに比べて、あいつらはなんて野蛮なんだ」という差別意識を描き出し、「でも俺たちだって野蛮だ、実はまったく同じなのさ」とヘミングウェイは訴えているのだ。リッチな男性向けの雑誌HOLIDAYを選んだ意図もここにある。こうした奢りへの憤りを読み取らないと、「善良なライオン」は単なる子ども向けの寓話で終わってしまう。「悪い人たちと関わったらダメ」といった教訓など、そこには書かれていない。

蝶々と戦車・何を見ても何かを思いだす―ヘミングウェイ全短編〈3〉 (新潮文庫)