「沼地の恐怖」 トルーマン・カポーティ

「沼地の恐怖」 トルーマン・カポーティ

「沼地の恐怖」(原題:Swamp Terror)は早熟の天才と呼ばれるカポーティの初期短編で、おそらく10代の頃に書かれたものかと思われる。

「沼地の恐怖」だけでなく「トルーマン・カポーティ初期短編集」に収録されている作品群は「習作」と呼ばれることが多いが、少し違和感を覚える。「習作」とは練習目的で書かれた作品のことだが、カポーティ本人は練習とは思っていなかったのではないだろうか。結果的に練習になったということならわかるが、練習を目的に小説を書くというのはどうもピンとこない。

「デビュー前の未発表作品」と「習作」はイコールではないので、混同しない方がよいと思うのだが。

なんだか理屈っぽくなってしまったので、一旦ここで書くのをやめてソフトクリームを食べます。

「沼地の恐怖」は、タイトルから受ける印象通り、不気味さに包まれたダークな短編だ。森を舞台にした冒険小説風の設定とも言えなくはないが、南部ゴシックのムードが濃く、ウェットで陰鬱。自然の健やかさや爽やかさはまるでなく、逆に息苦しさを覚える。

あらすじは…

ジェプとレミーという二人の少年が犬を連れ、逃げた囚人を見つけるために森へ入る。しかし、レミーは怖気づきすぐに引き返してしまう。ジェプは犬と共に奥へと進むが、得体の知れぬ不気味さに不安が高まる。ガラガラ蛇に遭遇し、犬が斜面を転げ落ちて死んでしまう。そして迷子になり、引き返す道さえわからない。次第に夜が近づき、あたりが暗くなりはじめる。

この後、物語は最悪の方向へ展開する。面白いことは面白いのだが、サスペンスフルな状況を作り出すためのご都合主義という感じは否めない。友人や飼い犬が呆気なく死んでしまうあたりにやや軽さも感じてしまう。

とは言え、10代でこれだけの短編を書けるのは凄い。カポーティらしい闇も既にあり、そういう意味でも早熟な作家だと思う。その後に生み出す珠玉の名作短編と比較すれば完成度や深みに欠けるが、そこと比べてはいけない。絶頂期のカポーティにはどの作家だって太刀打ちできないだろう。

熟成や洗練はなくとも、「トルーマン・カポーティ初期短編集」に収められた作品群の瑞々しさに個人的には惹かれる。カポーティらしい優しさ(マイノリティへの共感性の高さ)もすでに内包している。カポーティを理解する上で貴重な作品であるとか、天才作家の成長過程を確認できるとか、そういった資料的捉え方でなく、純粋にとても魅力的だ。


ここから世界が始まる: トルーマン・カポーティ初期短篇集