一言でいうならフランスとアメリカを舞台にしたセレブたちの愛憎劇で、その手の話は個人的には好みでないのだが、それでもかなり楽しむことができた。とにかく理屈抜きに面白い。先の展開が気になって、他のことが手につかなかったほどだ。文体はほどほどに知的で格調高く、それでいて読みやすく、フィッツジェラルドらしい栄華と悲愴のコントラストも魅惑的に思えた。
良し悪し云々ではなく、娯楽性はまあまあ強い。(この短編に限ったことではないが)
読者を退屈させないようにというサービス精神からなのか、暇つぶしに読める俗っぽさを出版社から求められていたためなのか、途中から驚くような展開や都合の良い偶然が重なり、どんどんとガチャついていく。おかげで、笑えるわ、ハラハラするわで、まったく飽きることなく読めた。
フィッツジェラルドという人はちょっとお人好しなのかな。読者を退屈させないよう、味を濃くせずにいられない性分なのかもしれない。穿った見方をすれば、読者にちょっと媚びているように思えることもある。
親友であったヘミングウェイは、フィッツジェラルドとはまるでタイプが違う。マーケティングとは無縁で、自分が書きたい題材を書きたいように書いた。いつだって自分が納得できるかが重要で、「読者が退屈しないだろうか?」といった心配は頭になかった気がする。読者に優しくないようにも聞こえるが、堂々としているとも言える。
フィッツジェラルドはこの短編で、フランス人の妻を露骨に悪女として描き、逆にアメリカ娘をチャーミングに描くことでアメリカ愛を叫んでいる。気持ちはわからなくもないが、個人的な感情が高ぶってやや空転しているような印象を受けた。でも、そういう人間らしいところが憎めない。フィッツジェラルドの作品は、少し時間が経つとなぜか再読したくなってなる。気の毒な主人公が多いので、愛おしさが読後に残るからだろうか。
いろいろ書いたけど、面白いことは間違いないので是非ご一読を。(うわっ、なんて雑な締め方)