「夢の家」 カート・ヴォネガット

「夢の家」は、風変わりな隣人夫婦との付き合いをユーモラスに描いた短編で、ちょっと哀れに見えたお隣の奥さんが、病気を経て、夫の愛情にそっと充たされるという慕わしい話だ。(合っているかな?)  心に沁み入ってくるような大人の物語で、頭の中に鮮やかに映像が立ち上がり、まったく退屈することもなく、読後感も悪くない。ラディカルなSF作家のイメージと違い、素朴で良質な人間ドラマという印象だ。

ただ、私にとってはちょっと。。。

あくまで個人的な感想で作品のクオリティ云々の話でないのだが、なんというか、アットホームさに抵抗感を覚えてしまった。

芸術性より娯楽性が強く、わかりやすい面白さがあるため、充分に愉しめた。でも、ハートウォーミングな話はどうも苦手で、愉しみながらアレルギー反応も出ていた。説明が難しいが、優しい雰囲気の人に親切にされるとちょっと拒みたくなる、それに近いかもしれない。(わかりにくいね) 朝の連ドラが苦手というか、皆が泣いている結婚式が苦手というか。。。賛同を得られないのを承知で書くなら、幸せ成分が多いと嘘くさく感じてしまうのだ。人の幸せを喜べない、というネガティブさではなく、「本当かよ?」と疑ってかかってしまうのである。「夢の家」が偽善と言っているわけではないが、ヒューマニズムのさじ加減としてやや甘みが強いと感じた。

ハッピーな話、ポジティブな話を私も求めてはいるのだが、そこにはリアリティが不可欠だ。矛盾しているようにも思えるが、どうなのだろう。読後、「チェーホフが読みたい」という欲求に駆られた。洋菓子を食べた後に、ブラックコーヒーが飲みたくなるように。

好き勝手に感想を書かせてもらったが、完成度の高さは間違いないと思う。私の口に合わなかったが、お勧めできる短編だ。

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