『濡れ鼠』 ニシダ

読みながら少し照れてしまうようなハートウォーミングな短編だった。捻くれたところがなくて、とても優しい。育ちの良さが出ているのかな、と思ったりもした。

『濡れ鼠』を超ざっくり説明すると、12歳年下の恋人を持つ史学科准教授の葛藤を描いた恋愛短編。短編集のタイトル通り、不器用な人間があれこれ悩み迷いながら生きる人間臭い話だ。みっともないけど愛おしい、そういう主人公の一人称で語られる。

物語が時系列で進むため、話の展開が素直で読みやすい。手練れ感を出そうと小難しい言葉を使ったり、解釈に苦しむようなメタファーを効かせたりしないので、楽に自然に物語に入っていける。

ちなみに、濡れ鼠(ぬれねずみ)とは、衣服を着たまま全身がずぶ濡れになることで、意図せずびしょ濡れになったみじめな様子を表現するときに使う慣用句。

『濡れ鼠』のレビューをざっと見たが、村上春樹っぽいという感想を持つ人が少なくないようだ。若い女性との恋愛ドラマであり、どこか謎めいた閉塞感もあるため、似ていると感じた人がいたのかもしれない。主人公がナルシストではないので、私は似ていないと思った。(ハルキ批判ではないですよ)

以前に『遺影』の感想をアップしたが、『濡れ鼠』の方が物語に没入できたし、落ち着いたトンマナもこちらの方が好き。理由はよくわからないが夜の学食のシーンが心地好かった。

内向的な性格の人が書く小説はやはり面白い。残りの短編もすべて感想をアップしたいと思っている。短編ではないが、第二作の『ただ君に幸あらんことを』は更に評判が良いので、今から読むのが本当に楽しみ。

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