ハードボイルド小説を読むとき、旧友に会っているようでほっとする。子どもの頃に夢中になった「ロビンソン・クルーソー」や「海底2万マイル」をのぞけば、私の読書歴はレイモンド・チャンドラーにはじまる。御守り代わりに「さらば愛しき女よ」や「湖中の女」をいつもバッグに入れて歩くほど、こよなくマーロウものを愛していた。
その流れでチャールズ・ウィルフォード、ジェイムズ・エルロイ、ジム・トンプソン、マイクル・Z・リューイン、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・ハドリー・チェイスなど探偵小説、警察小説、犯罪小説を読み漁った。(読み漁ったはちょっと大袈裟かもしれないが)
今回の記事は、「ベスト・アメリカン・ミステリ」(J・エルロイ&O・ペンズラー編)に収められたロバート・B・パーカーの「ハーレム・ノクターン」の感想。「ダブルプレー」という長編の元になった短編らしい。著者の短編はとても珍しいのでワクワクしながらページをめくった。
黒人初のメジャーリーガーとして知られるジャッキー・ロビンソン(実際はウォーカーっていうキャッチャーが最初の黒人選手なのだが…)と彼を護衛するボディガードを主人公にした話だ。酒場でトラブルに巻き込まれたロビンソン。絶体絶命のピンチに陥ったが、ベースボールに敬意を抱く店の客たちが体を張って守る、という骨太で温かいストーリーだ。殺伐としておらず、人間味があって読後感もかなり良い。
ちなみにジャッキー・ロビンソンがどれだけ偉大な選手かというと、彼の背番号42はメジャーリーグ全球団の永久欠番になっており、現在は誰もつけることができない。新人王に当たるルーキー・オブ・ザ・イヤーはジャッキー・ロビンソン賞と呼ばれたりもしている。
ハードボイルドの祖といえばヘミングウェイだが、この「ハーレム・ノクターン」がヘミングウェイ短編集「男だけの世界」あたりに収録されていたとしたらどうだろう。「殺し屋」や「5万ドル」などに近いムードで、少しエンタメ的な味付けを薄くすればほとんど違和感もなくなるだろう。
久しぶりにハードボイルドを読み、理屈抜きにこの手の味わいが好きなのだと気づいた。そういう意味では収穫のある読書となった。