「四番目の警報」 ジョン・チーヴァー

原題はThe Fourth Alarm。この短編が発表されたのは1970年、著者のチーヴァーは12年生まれなので60歳手前が執筆時期かと思われる。

訳者である村上春樹氏が冒頭の紹介しているが、当時のチーヴァーは時代の流れから取り残されていると感じていたようだ。

1970年頃と言えば、アメリカではカウンターカルチャーの全盛期。カウンターカルチャーとは文字通り「対抗文化」のことで、メインカルチャーや社会規範などに反発したムーブメントを指す。

60年代後半からベトナム戦争反対の機運が高まり、69年に40万人を集めたといわれる伝説的な音楽イベント「ウッドストック・フェスティバル」が開催され、70年にはビートルズが解散し、象徴的な映画「イージー・ライダー」が公開された。

反戦。ラヴ&ピース。ドラッグ肯定。一言でいうなら、古い価値観をぶっ壊した時代である。

「四番目の警報」は、そうしたカウンタカルチャー真っ只中の、積極的にその潮流に乗っていく若い妻とそれを受け入れられない夫の話だ。

若い妻は教師の仕事を辞めて、出演者全員が全裸になるというオフ・ブロードウェイのミュージカルに出ることになる。(当時話題を集めていたミュージカル「ヘアー」をモデルにしている) 夫はそのような破廉恥な行為を許容できず、離婚を申し出る。若い妻はこのミュージカルに出ることで真の自分を発見でき、気持ちが豊かになり、それまで以上に良い母親に成長できると信じている。なぜ夫が離婚などと言い出すのか理解できない。夫は、以前のような妻に戻ってほしいと虚しく願い、素朴だった頃のノスタルジアにふける。

こうしてあらすじを書いていると、疎外感に苦しむ哀しき中年男の話に思えるが、ラストはどこか清々しい。時代の空気に迎合することをやめ、「自分は自分」という小さいながらも硬く強い絶対性を見つけた解放感がある。(この解釈で合ってます?) まあ、味方によっては「昔は良かった」という老害的な嘆きともとれる。

はじめに書いたが、当時のチーヴァーはオワコンと見られていたようで、かなりアルコールにも依存していたらしい。浮気や同性愛が原因で夫婦仲も最悪だったようで、荒れた暮らしが作品に顕れているとも言える。

妻はすでに身も心も別の共同体の中にあり、家庭には居ない。この夫婦の距離感がとてもせつない。

まあ、そういう悲劇が描かれた短編だ。激しい夫婦喧嘩より、こうした交わらなさの方が怖いかもしれない…

巨大なラジオ / 泳ぐ人

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