ヘミングウェイ 名言(原文に忠実に再翻訳しました)

「追われて」 ブライアン・エヴンソン

「追われて」 ブライアン・エヴンソン

せきたてられるような、よく動きまわる文体だ。読んでいると、著者のブライアン・エヴンソンの人となりが自然と目に浮かんでくる。カジュアルな服装で、人懐っこくて、いつも何やら忙しそうで、部屋にはモノが溢れていて・・・。まあ、勝手な想像に過ぎないが。

「追われて」(原題:A Pursuit)をはじめエヴンソンの短編を何篇か読んでみたが、なんというか自分とまったく違う感性が炸裂しているため、逆に余計なことを考えずに物語に入っていくことができた。思いもよらない話をする風変わりな同世代の友人という感じで、肩肘張らず素直に楽しめた。

「追われて」は、三人の元妻に追われている男の話だ。追っているのは一人かもしれないし、二人かもしれない。最初の妻から届いた手紙は何を意味するのか。妻の筆跡ではないので、別の人間が妻のふりをしているのか。もしかすると元妻たち三人が共謀している可能性だってないとは言えない。なぜ自分が追われているのか調べようと、男は最初の妻を訪ねてみる。しかし、危険な事件の気配を感じ、会わずに家の前から逃げるように立ち去る。だが、バックミラーには尾行してくるクルマが・・・

物語は追われている(かもしれない)男の一人称で書かれており、とにかく不可解な謎が頭に渦巻き、探偵小説のようでもあり、サスペンス小説のようでもある。

自分の中にある現実は、実際の現実なのか。ノイローゼといえるような不安定な精神を抱えながら、三度の離婚歴を持つ中年男は正常と異常の間でもがき苦しむ。切迫した状況でありながらも、どこか滑稽ではあるのだが。後半の尾行に怯えるくだりが長く、エンドレスな悪夢という感じで、この作家の危うさを表しているようで痛々しい。

ブライアン・エヴンソンは1966年生まれで、得体の知れない不安な世界を独自の文体で描き出し、アメリカ文学の先端を走っている作家だという。「追われて」は「遁走状態」という奇妙なタイトルの短編集に収められている。表紙のイラストがかなり不気味だが、読後に見ると違和感は消えている。なんというか、そういう作家なのだ。