『戦争』 ジャック・ロンドン

戦地で、ひとり偵察任務を行う若い男。どこから敵が狙っているかわからない。一瞬たりとも気を抜くことはできない。警戒心を研ぎ澄ませ、念入りに周囲を確認して川を渡ろうとした時、敵の兵士を発見する。相手は一人、こちらの存在には気づいていない。若い男はその兵士を狙撃せず、身を隠したまま立ち去るのを待った。その時の判断が、のちに自身の運命を大きく左右することになる。

ジャック・ロンドンの小説は、「死」が身近なものであることを改めて読者に気づかせる。プロットはシンプルで、文体は力強い。攻撃的な若いエネルギーに満ちている。

この『戦争』が収録されている短編集『火を熾す』(柴田元幸翻訳叢書)に関するネット上のレビューにざっと目を通してみた。賛同する部分もあるが、同時に違和感も覚えた。

「死の臨場感に溢れた描写が生きる感覚を目覚めさせる」

「無気力な現代人が読むべき剥き出しの生への執着」

「圧巻の描写に打ちのめされた。まさに壮絶な読書体験」

うーん、気持ちはわかるのだが、少しばかり大袈裟ではないだろうか。皮肉っぽい書き方で申し訳ないが、人はそんな簡単に目覚めたり、打ちのめされたりしないものだ。私はこのブログで約4百の短編を取り上げてきたが、読む前と後で人生が劇的に変わったと思える作品はひとつとしてない。

強いて挙げるなら、ヘミングウェイの短編は、私の中にぼんやりとした風景を残した。ストーリーは正直どうでもいい。『蝶々と戦車』や『清潔で、とても明るいところ』の風景がまるで自分の記憶のように残った。それが、いつか私をスペインへと連れていくことになるかもしれない。そうやって何十年もかけて僅かずつ人生に影響してくるのだと思う。

激しくなければ価値がない。攻めていなければ意味がない。ジャック・ロンドンを読む時、その類の圧を感じる。若さ特有の剛速球は魅力的ではあるが、豪速球だけで他人の人生を変えることはきっと難しい。レビューを読む限り、著者は多くの人に激しい生き様を見せつけたと思うが、私は「太く短く生きる儚さ」の方をどうしてもより強く感じてしまう。

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