『その出来事の真実』 リー・チャイルド

ローレンス・ブロック、スティーヴン・キング、ジェフリー・ディーヴァー、リー・チャイルド、マイクル・コナリーら超ベストセラー作家17人が、エドワード・ホッパーの絵から物語を創造するというユニークなコンセプトの短編集『短編画廊』。『その出来事の真実』 はその中の一遍で、リー・チャイルドが書き下ろしている。

日本での知名度はいまひとつだが、ホッパーの絵は誰でも一度くらいは目にしたことがあるだろう。陰影が強く、描かれている人物が無表情で、メランコリックな静寂に覆われている。部屋の壁に飾りたいかは別として(ちょっと鬱っぽくなりそうなので)、惹かれる人が多いのはわかる気がする。ちなみホッパー自身も作品同様に寡黙でやや気難しい人だったらしい。

で、 ホッパーの『HOTEL LOBBY,1943』という絵を短編化したのが『その出来事の真実』。英国の推理作家リー・チャイルドがこの絵からストーリーを膨らませている。

エドワード・ホッパーの作品を愛する一流作家はどのようなストーリーを創造したのだろう?

期待して読み進めると…

申し訳ないが、あらすじを書く気が起こらない。正直な感想を言うが、グッとくるものがなかった。ページを捲る手も妙に重かった。この短編の出来が悪いとかそういうことでない。展開は巧妙でクオリティも高い。そもそも論になるが、絵画から小説を生み出すという企画そのものに疑問を覚えてしまったのだ。

見る人の想像力を喚起する名作にわざわざ物語を付けてイメージを固定化する、これってどうなのだろう?絵から生まれた短編は、どうしてもその絵の中に閉じ込められたような窮屈さがあり、言うまでもないが大前提としてオリジナリティがない。広がりや新鮮な驚きがないのだ。作家の創造力の凄みを堪能できるという意見もあるかとは思うが、個人的には「すでに見事に表現されている世界を焼き直す必要はないのでは?」と感じてしまった。

『その出来事の真実』という短編の中身について何一つ触れなかったが、皆さんなら『HOTEL LOBBY,1943』の絵にどのような物語をイメージするだろうか?

絵には自由に想像を膨らます喜びがある。私の個人的な意見として聞いてほしいが、ホッパーファンはこの『短編画廊』を読むことに慎重になった方が良いかもしれない。下記のように錚々たる文豪がこの企画に参加しているので、作家の手腕を楽しみたい方にはお勧めできる短編集だ。

収録作品

「ガーリー・ショウ」ミーガン・アボット 小林綾子 訳

「キャロラインの話」ジル・D・ブロック 大谷瑠璃子 訳

「宵の蒼」ロバート・オレン・バトラー 不二淑子 訳

「その出来事の真実」 リー・チャイルド 小林宏明 訳

「海辺の部屋」 ニコラス・クリストファー 大谷瑠璃子 訳

「夜鷹 ナイトホークス」 マイクル・コナリー 古沢嘉通 訳

「11月10日に発生した事件につきまして」 ジェフリー・ディーヴァー 池田真紀子 訳

「アダムズ牧師とクジラ」 クレイグ・ファーガソン 不二淑子 訳

「音楽室」 スティーヴン・キング 白石 朗 訳

「映写技師ヒーロー」 ジョー・R・ランズデール 鎌田三平 訳

「牧師のコレクション」 ゲイル・レヴィン 中村ハルミ 訳

「夜のオフィスで」 ウォーレン・ムーア 矢島真理 訳

「午前11時に会いましょう」 ジョイス・キャロル・オーツ 門脇弘典 訳

「1931年、静かなる光景」 クリス・ネルスコット 小林綾子 訳

「窓ごしの劇場」 ジョナサン・サントロファー 矢島真理 訳

「朝日に立つ女」 ジャスティン・スコット 中村ハルミ 訳

「オートマットの秋」 ローレンス・ブロック 田口俊樹 訳

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