『あの人たちが本を焼いた日』 ジーン・リース

ジーン・リースは1890年にドミニカ島で生まれた女性作家。ちなみにヴァージニア・ウルフは1882生まれ、フラナリー・オコナーは1925年生まれ、アリス・マンローは1931年生まれ。

日本ではそれほど知られた作家ではないと思うが、私もあまり知らない。というか初めて手に取った。ちょっとだけネットで調べてみたところでは、幸せとは縁遠い波瀾万丈な人生を送った人のようだ。国籍はイギリス人なのだが、英国領のドミニカで生まれ育っている。16歳で本国イギリスに渡るが、植民地育ちということで学校に馴染めなかったらしい。このあたりの空気感は日本人にはわかりにくい。しかも百年以上も前のことで、想像するのさえ難しい。そういった生い立ちもあり、規範に縛られるのが嫌でボヘミアンな貧乏暮らしをしたり、フランスのスパイと結婚したり、離婚と結婚と飲酒を繰り返している。

てな感じで、居場所のない疎外感がどの短編からも滲み出ている。短編集の表題作である『あの人たちが本を焼いた日』(原題はThe Day They Burned the Books)も然りで、どこか痛々しい。それでいて、したたかで胆力がある。妙な言い方になるが文学的な小説だと感じた。日常の喧騒から離れたモノトーンの静けさに懐かしさを覚えた。今、読書してます。そんな気分になった。

作品のあらすじや解説も書かずになんだが、正直なところもう少しエンタメ性があってもいいかなと思った。誤解を恐れずに言うなら、何を描くにしても個人的にはエンタメであってほしい。疎外感も、怒りも、情念も、信仰も、懊悩も、絶望も、もちろん希望や幸福も、何が主題であってもエンタメであってほしい。俗っぽい娯楽性ではなく、難しいことや重たいことほど、面白く伝えなければ届かないだろうという意味で。自分の場合、文学にしても音楽にしてもスポーツにしてもメインストリームが大好きで、そこには必ずエンタメ力が発揮されている。逆に言えば、渋い玄人好みなものには引力を感じない。伝えようとする意思が欠けているように思えてしまう。

ジーン・リースから話が逸れてしまったが、芯のある感じは好きだし、同短編集に収録された『フランスの刑務所にて』など心に残った作品もある。でも、舌がお馬鹿な私には、もう少しわかりやすい味付けの方が好みに合うかな。

TOP