「人情武士道」という短編集に収められた、著者の職人ものの先駆け的な作品である。市井の人を描いた所謂世話物で、この作品に限ったことではないが小ざっぱりした名調子がなんとも心地好い。(何だか文章がわかりにくいね、申し訳ないです)
どこまでも真っ直ぐで、でも真っ直ぐ過ぎて融通が効かない頑固者。「しぐれ傘」は、そんな純真な職人の男と、それを表立たず根気強く支えようと心に決めた一途な女の不器用な恋愛話である。近頃の日本では絶滅危惧種ともいえるピュアな男女の姿が描かれている。
山本周五郎という作家はとにかく語彙が豊富、表現も巧みで淀みがない。清潔感溢れる文体は、檜風呂のようにさっぱりしている。(ちょっと微妙な比喩だ) まるで名人の落語のように、良質な娯楽の魅力に溢れている。(この比喩もいまいち)
まあ、時代小説慣れしていない人でも充分に愉しむことができ、明るい気持ちにしてくれる。骨があって、でも優しい愛妻家で、誰とも群れない。山本周五郎はそういう作家だ。
重い悩みを抱えて強い薬を欲している人や、小説に過激さや攻撃性を求めるハードコアな人には向かないかもしれないが、庶民の人情劇を通して大切なものの在り処を気づかせてくれる。周五郎作品にはある種の形式的な魅力があり、根強い多くのファンがいるのもうなづける。
黒澤明や高倉健を虜にした作家なので、読まず嫌いな人は、騙されたと思って一篇だけでも読んでみてほしい。