『モンド氏の失踪』 ジョルジュ・シムノン

かなり前にシムノンの『倫敦から来た男』を読んだ。ストーリーはあまり覚えておらず、真っ暗という印象だけが残っている。映画化されているが、私の中のイメージとかなり近い。
真っ暗でしょ。シムノンといえばメグレシリーズが有名だが、それも思っていたほど明るくはない。
この暗さが堪らないという人もいるかと思うが、私はちょっと苦手だ。フランスでは初登場一位で大ヒットしたそうだが、暗い気分にどっぷり浸る快感があるのかな。。。
で、『モンド氏の失踪』はどういうストーリーかと言うと…
パリの会社社長ノルベール・モンド氏は、市の中心部に社を構え、バリュ通りに豪華な邸宅をもち、妻と二人の子供にも恵まれて一見全てが順調に見える。しかし、その実、現在の妻は彼のことを理解せず、二人の子供はあらゆることで彼にもたれかかっている。48歳の誕生日の晩、モンド氏は会社も家族も富も捨て、名前と外観を変えて、夜汽車で南仏に逃亡する。自殺を図った女との同棲、賭博と麻薬と売春がうごめく秘密クラブ、悲惨な状況にある最初の妻との邂逅…モンド氏は望むものを手に入れられるのか。(「BOOK」データベースより)
他人から見れば羨ましい境遇の会社経営者が、特にきっかけなく、家庭も仕事もすべて捨て夜汽車でパリを去る。クライムノヴェルであれば期待が膨らむ展開ではあるが、エンタメでなくあくまで本格小説であり、じっとりと地味に話は進む。
主人公のモンド氏は子供の頃から空想に耽ることの多い内向的な性格で、父親が快楽に生きる破滅型の男だったこともあり、心に重荷を背負って生きてきた。破産から立ち直るため、我慢強くコツコツ尽力してきた。すべてを棄てて別の人生を生きれたら、という願望を心のどこかに抱きながら。
読後の率直な感想としては、主人公と自分の感性があまりに違い過ぎて最後まで同化できなかった。細かいことかもしれないが、ホテルの隣部屋の様子が気になってドアに耳を当てる場面があるのだが、かなり引いてしまった。「うぇ」と声が漏れてしまったほどだ。
ネタバレになるが、ラストでモンド氏は元の生活へと戻っていく。鬱々した気持ちが晴れたわけではないため、後味はあまり良くない。今の日本でも、ストレスまみれで逃げ出したい気持ちを抱えている人は少なくない気がする。実際、日本国内での失踪者数は行方不明者届が提出されているケースだけで年間約8万件という。事故や誘拐なども含まれるため一括りにはできないが、逃げ出して幸せになれた人はどのくらいいるのだろう。どこへ行こうと自分からは逃げられないし、過去がリセットされるわけでもない。断捨離では何も手に入らないし、責任を放棄する人の多くは負のスパイラルに陥ることだろう。逃亡はそれほどロマンチックではない、それを再確認する読書になった。
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