「ならぬ堪忍」 山本 周五郎

無性に山本周五郎の文体に触れたくなる時がある。さっぱりと清潔感があり、キメ細かく精密であり、淀みがなくて読みやすい。コーヒーに飽きた頃に緑茶が飲みたくなるように、健康ランドに飽きた頃に旅館の檜風呂に浸かりたくなるように、周五郎を欲する時がある。(なんか例えを間違えている気はするが)

どこの書店でも、山本周五郎の小説は見つかる。安部公房はなかなか見つからないが。腕もセンスも良い職人によって丁寧に仕上げられた読み切り娯楽短編は、安定して需要が高いのだろう。未読の方には渋い時代劇というイメージが強いかもしれないが、実のところは思い切りエンタメ小説。(と私は思う) 文章のクオリティはかなり高いが、重いテーマを扱っているわけではない。(と私は感じる) 「ならぬ堪忍」もそうだが、戦前や戦時中に書かれたものは、国の統治の下に書かれた物語も多いように思える。著者の思想というよりは、大きな力にコントロールされた中で執筆した、という印象を受ける。そういう理由もあって、筋書きをあまり重視する気にはならない。私にとって周五郎の魅力は、端的で精緻な小ざっぱりした文体であり、亜流の作家とはその心地好さは別格に思える。本当に巧い文章は読みやすい。雑味がないから読み疲れない。実に気持ち良いのだ。怪しい記憶だが、意外なことに山本周五郎はクリスチャンだった気がする。聖書が愛読書だったような。確か直木賞を固辞した人で、愛妻家でもあったかと。全部、うろ覚えって。。。

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