「人は、なぜ他人を許せないのか?」 中野信子

「人は、なぜ他人を許せないのか?」 中野信子

決断の遅い政治家を罵り、マスクをせず走るランナーを睨みつけ、Yahoo!ニュースのコメント欄でやらかした有名人を正論で断罪する。

近頃の日本人には、寛容さがまるでないように思える。ワンミスが命取りで、ちょっとした失言で殺人者のように吊るし上げられることも少なくない。

どうして、ここまで他人に厳しいのだろう?こうした不寛容社会は、同質化を重視する島国日本に限ったことなのだろうか?それともストレスが原因だろうか。添加物など食生活が良くないのだろうか。もしかしたら電磁波の影響?いやいや、やはり幼少期の教育が良くないのかもしれない…

最近、バイリンガールちかさんというトップYoutuberが炎上して話題になった。ググればいくらでも出てくるので経緯を説明しないが、コロナ禍での海外渡航や帰国が反感を買い、その謝罪対応がうまくなかったこともあって、火に油を注ぐ結果になった。自粛が叫ばれる中での行き来は褒められる行動ではないとは思うが、寄ってたかって糾弾することの方が私は気になった。過剰に他人を監視する日本の閉塞性をそこに感じ、なんだか気が滅入ってしまった。

そんなことをぼんやり考えていたこともあり、「人は、なぜ他人を許せないのか?」 というタイトルが目に飛び込んできた。売れに売れている脳科学者の中野信子氏の新刊である。

読んで良かった、これが率直な感想だ。難解な専門用語を用いず、平たい言葉で書かれていて、一気に読み終えた。今の世の中に渦巻いている「許せない!」という感情を、やさしく解き明かしてくれる一冊だった。

「ルールを守らない」など、わかりやすい獲物を見つけて罰する。それにより、人間の脳は快楽を得ていると著者は分析する。脳内から快楽物質のドーパミンが分泌され、気がつけば「正義中毒」になり、そこから抜け出せなくなるというのだ。直接的に自分が被害者でなくても、罰すること自体が楽しいから、獲物探しをやめることができない。正義で人を罰することに依存性があるというのは、目からウロコだった。炎上や不謹慎狩りが快楽によって作られていると考えると、なんとも怖くなってくる。

依存は厄介だ。脱却が難しいことは素人でもわかる。タバコ、酒、ギャンブル、スマホなど、断ちたくても断てない人はいくらでもいる。「正義中毒」という依存が今の日本に蔓延しているとするなら、この先も他人の過ちを非難する人は減らないだろう。時代が変われば人の気持ちも変わると楽観的に考えたいところだが、依存はそれほど甘くないはずだ。

この本には、自分の感情を解明し、他者を理解し、穏やかに生きるためのヒントも書かれている。何気なく手にした本だったが、とても有益な気づきをもらった。怒りに支配されている人に、是非お勧めしたい一冊だ。