『何か用かい?』(原書) レイモンド・カーヴァー

短編集Will You Please Be Quiet, Please?に収録されたWhat Is It?(邦題『何か用かい?』)を原書で読んでみた。知らない単語は割とあったが、簡易な短文が多いこともあり、なんとか読み通すことができた。翻訳版であらすじが頭に入っていたことも助けになった。

村上春樹氏の翻訳作法に関する考察をネット上で見つけていくつか目を通してみたが、正直あまり内容が頭に入ってこなかった。等価置き換えとか自由間接法とか主語の不省略とか、小難しい単語がたくさん出てきて脳が萎えてしまった。まあ、自分が翻訳に興味がないことだけはわかった。

ここからは、原書を読んでの私の浅い感想になる。まず思ったのは、英語でもめちゃくちゃ面白い話だということ。当たり前のことだが、何語でも面白いものは面白いのだ。どうして「カーヴァー短編ベスト5」に入れなかったのだろう?と思ったりもした。「カーヴァーの小説によく登場する不貞と破産という二大テーマが並立し、しかも「情けない男シリーズ」にも入れられるという、もうカーヴァーでなくては書けないドツボ的世界である」という村上春樹氏の解説通りで、まさに著者らしさ満載のドツボ短編だった。

で、原文と翻訳文の印象は違っていたか?

英語力の低い奴の戯言なので「そういう意見もあるのね」くらいに聞いてほしいが、感触としては原書の方が硬くて暗いと感じた。ラギッド感があるとも言える。村上春樹訳『何か用かい?』の方が洗練されていて、完成度が高いと感じる人もいるのではないだろうか。濃いアイスコーヒーにちょっぴり上質なミルクを垂らしたら、口当たりが良くて美味くなったという感じかな。(例えにあまり自信がないが)

例えばこの原文。 

Toni dresses up.It’s four o’clock in the afternoon. Leo worries the lots will close. But Toni takes her time dressing.

*ChatGPTの訳はこんな感じ。

トニは着飾っている。午後4時だ。レオは中古車屋が閉まってしまうのを心配している。でも、トニはゆっくりと服を選んでいる。

*村上春樹訳だとこうなる。

トニはめかしこんでいる。時刻は午後の四時だ。中古車屋が閉まってしまうんじゃないかとレオはやきもきしている。でも、トニの方は服を着るのにのんびりと時間をかけている。

飾り気の無い原文が、翻訳によって柔らかく豊かになっているのがわかるかと思う。

原書を読む前は「翻訳なんて邪道、オリジナルを読まないと真の良さはわからないぜ!」と息巻いていたが、読後に「あれ、翻訳いいかも」って思ったりもした。カーヴァーが日本で人気があるのは結局そういうことなのね、という感じだ。

とは言っても、私はラギッド指向だし、映画の吹き替えと同じで、翻訳でちょっとリアリティが曇る感じが好きではないので、できるだけ原文で読みたいという思いが強まった。

以上、浅い記事でした。。。

原書:Will You Please Be Quiet, Please?

頼むから静かにしてくれ (2) (村上春樹翻訳ライブラリー)

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