「とんがり焼の盛衰」 村上春樹

1983年初出の短編で、英語圏ではThe Rise and Fall of Sharpie Cakesというタイトルが与えられている。sharpieは詐欺師という意味らしく、トランプのいかさま師のことをcard sharpieと呼んだりするそう。とんがり焼よりもSharpie Cakesの方が、話の中身をわかりやすく反映している。とんがり焼をどう訳すか、おそらく悩ましかったことだろう。
著者自身が語っているように、「とんがり焼の盛衰」は文壇に対して抱いていた印象を寓話化した物語である。村上春樹作品の中ではそれほど難易度の高くないメタファーかと思う。

*文壇とは…文筆活動をしている人たちの社会。作家・批評家などの集団。文学界。

「文壇は閉鎖的で、そこにいる連中はおぞましい。偉そうにしているが何も見えていない。文壇に擦り寄った方が金銭面では得かもしれないが、あいつらと付き合いながら生きていくなどまっぴらだ。死んでしまえ!」という激しい憎悪が込められている。言ってみれば文壇との決別宣言である。

連中とは関わりたくない。何を言われようと損をしようと構わない。金輪際関わるつもりはない。そういう強い意志がこの短編から伝わってくる。

嫌いな相手と喧嘩をするのでなく、コミュニケーションによって関係性を変えようとするのでなく、一切の接触を断つという選択をする。このあたり、著者の性格をよく表している気がする。まあ、私も同じタイプなので、気持ちはとてもよくわかる。私の場合、「ちょっと淡白すぎたかなぁ」「もう少し粘り強くならないといけないなぁ」と反省することは少なくないが、春樹さんはどうなのだろう。多分、そこはブレない気がする。変に頑張ってストレスを抱えるより、距離を置いた方が健やかでいられるとは思う。

頑張ります!(何を?)

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