夫は仕事に何の情熱も持ち合わせておらず、アルコールに依存した毎日を送っている。頭の回転が良く人間的な魅力あふれる妻は、ビタミンの訪問販売をはじめるが次第にそれも行き詰まる。彼女がリーダーを務めるチームの女性スタッフたちも、次々と見切りをつけて辞めていってしまう。気概の無い夫は、ただ気晴らしのために妻の部下に手を出す。夫と妻の部下はバーで黒人に絡まれ、辛辣な言葉を浴びせられたことで急に醒めてしまう。家に戻った夫は、凶暴なまでに機嫌の悪い妻から激しくののしられ、自暴自棄になる。
「ビタミン」(原題:Vitamins)は、タイトルが醸し出すイメージとはまるで違い、生きるエネルギーを失っていく人たちが現実的に描かれている。皆がどこか別の町で新しい暮らしを始めたいと願っていて、現状に絶望している。路地の行き止まりのような息苦しさに支配された短編だ。カーヴァーらしいと言えばそれまでだが、「精神状態は大丈夫かな」と心配になるほど光が無い。物語はとてもスムーズに展開していくため、一気に面白くは読めてしまう。でも、読後感は暗く思い。どうして、わざわざこういう辛い題材を取り上げる必要があるのかと思ったりもするが、良くも悪くもこれがカーヴァーのフィールド(得意分野)なのだろう。
ロバート・アルトマン監督の「ショート・カッツ」は、カーヴァーの短編や詩を同時進行で見せていく群像劇映画。元になったのは次の9作品で、「ビタミン」も含まれている。
「隣人」
「ダイエット騒動」
「ビタミン」
「頼むから静かにしてくれ」
「足もとに流れる深い川」
「ささやかだけれど、役にたつこと」
「ジェリーとモリーとサム」
「収集」
「出かけるって女たちに言ってくるよ」
「レモネード」