『ある渡航』 アーネスト・ヘミングウェイ

『ある渡航』と『密輸業者の帰還』は、評判がいまいちな長編『持つと持たぬと』(1937年)のベースになった短編であることはよく知られている。

『持つと持たぬと』は何度か映画化されていて、この予告はその一つ。

原作がヘミングウェイ、監督はハワード・ホークス、脚本はなんとウィリアム・フォークナー、主演はハンフリー・ボガード。ワーナーの本気さが伝わってくるドリーム・チームだ。でも、今の時代に観るとどうにもならないくらいに古い。とくにアクションシーンがぎこちなくて、ハンフリー・ボガードがまったくタフガイに見えない。

小説に話を戻そう。

原題はOne Trip Acrossで高見浩版では『ある渡航』という邦題を与えられているが、『片道航海』という訳もあったりする。このOneはOne wayを意味するOneなのだろうか。いや、「ある」のOneだよね。うーん、英語力不足でどちらが正解か判断がつかない。。。

『ある渡航』は、殺しがあり、騙し騙され、酒に溺れ、また殺しが起きる、といったハードボイルドでラギッドな男臭いクライム・ノヴェルだ。物語の展開はそれなりにスリリングで引き込む力がある。ただ、主人公の男はとても同化できるような人間ではなく、読み進めるほどに嫌気が指してくる。時代的に仕方がないのかもしれないが、黒人や中国人に対する差別的表現の多さにもうんざりさせられた。主人公だけでなく、登場人物がほぼほぼイタイ人たちなので、卑しい表現も自然と言えば自然なのだが、心躍る読書にはならなかった。

あらすじは書かないが、港や船上が物語の舞台。殺人者の話なので自伝的短編ではないのだが、ヘミングウエイ自身が船を所有していたため、フィクションであったとしても主人公の男を著者と重ねて見てしまう。海のことはすべて心得ているかのような主人公の慢心が個人的には少し鼻についた。他の小説で闘牛や戦争について書かれたシーンも、どこか自慢たらしさがあり、素直に読めないことが多い。

『ある渡航』はどう捉えればよいかわかりにくい短編だ。ストーリーは割とよくできている。でも自我が見え隠れして、ハードボイルドなヘミングウェイ最高だぜ!という気持ちは湧き上がってこない。

悪くはないけど、好きではない。そんな感じだろうか。。。


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