「アルコールの中で」 スコット・フィッツジェラルド

原題はAn Alcoholic Case。ホテル暮らしをしているアルコール中毒の漫画家の世話をすることになった若い看護婦の話だ。看護婦にとってアル中患者はハズレ仕事であり、この漫画家も例外ではなく、酒瓶の取り合いで暴れるなど現場は修羅場と化す。一度は、マネジメントをする女性に担当替えを頼むのだが、気が変わり「もう一度、あの患者についてみたい」と願い出る。ホテルに戻り、外出の支度をする漫画家を手伝っているとき、彼の死を眺める目を見て、彼を助けることなどできないと気づき、無力感に襲われる。人間の体にまだ入り込んでいない死そのものを眺めている男。周囲が一生懸命に救おうとしてももう無理なのだという、なんとも光のない物語だ。

看護婦は彼の人間的な魅力に気づき、誰もやりたがらない仕事に使命感をもって覚悟を決めて戻ってきた。でも、彼は手を差しのべれば助かるような場所にはいなかった。彼がいるのは深い暗い死の淵であり、看護婦に無力感を与えたのは、何よりも彼自身が死への願望を持っていることだった。

この短編一つを読んだだけでも、フィッツジェラルド自身の心の重さが伝わってくるようで辛い。

マイ・ロスト・シティー (村上春樹翻訳ライブラリー)

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