『紙の動物園』という短編は、ネビュラ賞とヒューゴー賞と世界幻想文学大賞を受賞し、史上初の三冠を達成した有名な短編だ。
ぼくの母さんは中国人だった。母さんがクリスマス・ギフトの包装紙をつかって作ってくれる折り紙の虎や水牛は、みな命を吹きこまれて生き生きと動いていた……。

人種問題の重苦しさに覆われた切ない御伽話という感じなのだが、表現のクオリティが高く、SF賞3冠に輝いたのも頷ける。(これがSFかどうかは別として) 母と息子の絆を描いた感動的な名作、と大絶賛する人が多いのもよくわかる。読書中、気持ちを揺さぶられ、熱い感情が湧き上がってきた。遣る瀬なさに涙が出そうにもなった。
ただ…、読み進めるほどに「性に合わないかも」と感じる自分もいた。ちょっと味付けが濃いというか、巧みに狙い過ぎというか、本音を言わせてもらうなら「抜け目のなさ」を感じてしまった。具体的に言うと、母親の愛情の深さを強調している部分や、死後に手紙で思いを伝えるというアイデアに少し引いてしまった。好みの問題かもしれないが、ヘミングウェイの逆を行くようなtoo muchな抒情文に拒否反応が出てしまい、クライマックスでは完全に気持ちが醒めていた。多くの人が素直に感動しているのだから、私が天邪鬼なだけなのだろう。
著者のケン・リュウは中国系アメリカ人作家。ハーバードで法律を学び、弁護士やプログラマー、翻訳者でもあるマルチな才能の持ち主。『紙の動物園』は、又吉直樹氏が推薦したことで話題となった。私との相性は良くなかったが、ネット上のレビューは「出会えて良かった感動作」という高評価で溢れている。未読の方は、私の感想を鵜呑みにせず、ぜひ手に取って確かめてみてほしい。