「砂浜に坐り込んだ船」 池澤夏樹

すでに他界している友人が語りかけてきて、生前に聞くことのできなかった深い話をするという静かな一遍。死者との交流を描いた短編集の表題作である。
怖い幽霊ものではなく、気味の悪さもまったくない。カポーティ作品のように、語り手が心に闇を抱えているわけでもない。
死者はとても自然に現れる。優しい喪失感というトーンで、作品全体が穏やかな大人の落ち着きを漂わせている。池澤夏樹氏のことはほとんど知らないのだが、何かに追われるように忙しなく生きているタイプではなく、育ちの良い上品な人かと想像する。(大丈夫かな、的外れじゃないよね?)
文体は体言止めを多めに用いていて独特のリズムがある。アナログ感が強いというか、ナチュラルな浮遊感があるというか、好みの分かれるところだがタイトな文章ではない。何度も推敲を重ねていくと、こういう素朴な味わいや良い意味でのアンバランスさは削がれていくので、フリーハンドの風合いを大切にしているのかもしれない。読みやすいけど実は深淵、そう感じさせる作家だなと思ったりもした。
あまり内容の無い記事になってしまったがお許しいただきたい。
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