「善良な田舎者」 フラナリー・オコナー

信心の強い母親と二人で暮らす32歳の娘ハルガ。彼女は幼い頃に猟銃の事故で片足を失って以来、義足の生活をしている。博士号を持つ無神論者であり、辛辣で孤独な女性だ。そこに訪ねてきた善良な田舎者風の聖書のセールスマン。男はハルガを週末のデートに誘い出す。敬虔なクリスチャンと思われた男は二人きりの納屋で豹変し、ハルガをはずかしめる。最後には義足をカバンにしまい、その場から立ち去る。

1955年に刊行された「善良な田舎者」(現代:Good Country People)は、なんとも毒素の強い残酷な短編だ。アメリカ南部の閉鎖的な空気の中で起こる異様な出来事、そのあまりの不快さから読者は強烈なショックを受けることになる。作家自身によると、その衝撃的なラストは初めから構想としてあったものではなく、最後になって急に思いついた結末とのこと。「この物語は読者にショックを与えるが、その理由の一つは作者自身にショックを与えていることにある」と本作について語っている。
この物語の中でシンボリックな意味を持つのは、オコナーも認めているが「義足」である。ハルガは幼い頃に片足を失い、代わりに義足を身体の一部とした。これは肉体という表面的なことに加え、魂についての比喩でもある。内なる部分で何かを失ったハルガは、心にも義足を付けて生きてきたことを示唆している。そして、物語の最後に残酷な人間が登場し、その義足を奪い去る。

深く深く下降して、はじめて見える人間の本当の姿がある。決して気持ちの良い物語ではないが、グロテスクな場所まで行かなければ核心に触れることはできない。精神も肉体もボロボロになるまで人間の異様さを直視しつづけた作家の、容赦のない攻めの姿勢がここにある。

ちなみに、いとうせいこう氏もオコナーが好きなようで、こんなツィートをしている。
「フォークナーを読むならフラナリー・オコナーも、であった方がいいでしょう。スイカズラの香りのするアメリカ南部の小説。「田舎の善人」もしくは「善良な田舎者」と訳されている、俺が腰が抜けるほど好きな短編を読み直す夜半。」

オコナー短編集 (新潮文庫 オ 7-1)

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