「ハロー、レッド」 カート・ヴォネガット

いやぁ、素晴らしい。娯楽性を求められる雑誌向けに書かれた短編と思われるが、その枠の中でここまでできるのは凄い。ムードも私の好みにピッタリで、最高に良かった。

「ハロー、レッド」は、ヴォネガットが残した全ての短編を8つのテーマに分類して収録したカート・ヴォネガット全短編の第4巻に収められており、「ふるまい」というセクションに振り分けられている。2014年に発売された「はい、チーズ」という未発表短編集で既に読まれた方も多いかと思う。

4冊完結の全短編集は、2018年の夏から2019年の春にかけて刊行されており、各巻の装画がとても魅力的で思わず揃えたくなる。トータルで1万円を超える買い物になるのでちょっと躊躇してしまうが、未発表作を含め名手の全短編をコンプリートできるのだから充分にその価値はあるだろう。

「ハロー、レッド」は、船乗りを辞めて故郷へ戻り、跳ね橋の昇降係の職に就いた男の話だ。別れた昔の恋人は違う男と結婚し、既に他界してしまっている。男の心を支配しているのは、自分の手を完全に離れてしまった赤毛の娘を取り戻すこと…

その魅力は読まないとわからないが、ただただ興奮の速報という感じで今この記事を書ている。(興奮の速報って何だ!?)

全編を覆う、無骨さと繊細さが融合したようなムードが堪らない。娯楽作品としての通俗性を感じはするものの、奥行きも重量感もある。キャラクターの造形も魅力的だ。物語が破綻してしまうような奇想天外さや暴走もない。

今年読んだ短編の中ではベストかもしれない。ヴォネガット作品はどれもそうだが、ページを捲る手が止まらなかった。退屈させない心遣いができる作家はやはり素敵だ。

何気なくチョイスした一篇だったが、完全に殺られてしまった。ジム・ジャームッシュが映像化してくれないかな、そんなことをふと思ってみたり、読み終えて数時間経つが、まだ頭から離れない。

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