「ザ・ロード」 コーマック・マッカーシー

「ザ・ロード」 コーマック・マッカーシー

「ザ・ロード」(原題:The Road)は2006年の作品だが、コーマック・マッカーシーの最新作である。2013年に「悪の法則」というリドリー・スコットが監督した犯罪映画の脚本を担当してはいるものの、小説は「ザ・ロード」から10年以上も新作が出ていない。クノップフ社と新作2作の契約をしたと「ザ・ロード」の訳者あとがきに書かれていたが、履行されぬままなのだろうか。元々が寡作な作家だが、84歳という高齢を考えるとあまり次作を期待してはいけないのかもしれない。

それにしても、次から次に作品が映画化される作家だ。「ザ・ロード」もヴィゴ・モーテンセン主演で映画化され、概ね高い評価を得た。何といってもアカデミー賞の作品賞や監督賞を獲った「ノーカントリー」が有名。監督のコーエン兄弟は「自分たちが監督した映画の中でとりわけ暴力的」と語っていたらしい。確かにコーマック・マッカーシーの作品は暴力三昧で、「ブラッド・メリディアン」などは体調の悪い時には読めないほどだ。

バイオレンスシーンの多さに加え、女性がほとんど登場しない。読者を楽しませようとするサービス精神も皆無だ。と言っても、退屈というのとは違う。スラッシュメタルのように、ハードなギターリフを繰り返すような文体で中毒性は高い。柔なものを蹴散らす激烈さとそこに生きるタフなキャラクターたちに、作者が抱えている心の闇の深さを見て取れる。

ちなみに作家のスティーブン・キングは「あなたのヒーローは?」と訊かれ、コーマック・マッカーシーを挙げ、「素晴らしい作家で、人を楽しませるコツを心得ている。しかも常に個性的だ」と語っている。「人を楽しませるコツ」が具体的に何を指すのか、このコメントだけではわからないが、原文で読むとまた印象も違うのだろう。もう少し英語力を高めていずれチェレンジしようと思う。(確か、村上春樹氏もコーマック・マッカーシーを原文で読んでほしいとどこかに書いていた気がする)

コーマック・マッカーシー作品に初めて触れる方は、その非情さを受け入れられなかったり、エンターテイメント性の低さから単調と感じてしまうことがあるかもしれない。かなり読み手を選ぶ作家ではある。暴力描写が少なく、ページ数も少ない「ザ・ロード」ではあるが、やはり容赦のない武骨な言葉が並ぶ。ページを捲っても捲ってもハードな文体のリフが繰り返される。

ストーリーそのものはとてもシンプルだ。

文明が壊滅した近未来。空は厚い雲に覆われ、地上には灰が積もる。太陽の光は失われ、動植物は枯死し、わずかな人間が残された。父子はショッピングカートに荷を積み、食料や物資を求めて、荒れ果てた大陸をひたすら歩き続ける。人肉をも貪る殺戮者たちに見つからぬよう、慎重に暖かな南を目指し進む。

私の読書経験の中で最も泣いた(号泣!)ラストについては何も書かない。これから読まれる方は、途中で投げ出さずとにかく最後まで読んでほしい。

「ザ・ロード」は200万部を超えるベストセラーで、ピュリッツァー賞を受賞した著者の代表作である。ロード・ノヴェルであり、読者は小説の中で共に旅を経験することになる。まるで未来が見えない世界で、寒さと飢えと恐怖を共有しなければならない。しかし、子どもの純粋さが、灰色の地獄の中で微かな光を見せてくれる。この小説は、高齢になってもうけた息子ジョン・フランシシスに捧げられている。いろいろな解釈ができる作品だが、とてもストレートな息子へのメッセージと素直にとりたい。暗澹たる未来が迫ってきている。文明が週末を迎え、何もかもが崩壊した時に、我々には一体何が残るのか。何が、人間と獣を分けるのか。一人息子にだけでなく、「ザ・ロード」はコーマック・マッカーシーが我々に残した遺書なのだとさえ思う。

コーマック・マッカーシーは裕福な弁護士の家に生まれたが、大学を中退し、空軍で4年を過ごし、その後は貧困生活の中で執筆を続けてきたという。周囲と馴染めない性格のためか、随分と苦労もしたようだ。自分にとっては、精神的に厳しい時に読みたくなる作家だ。

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