「静止力」 えらいてんちょう

「静止力」 えらいてんちょう

今回は、えらいてんちょう氏の「静止力」を読んでの感想。えらいてんちょう(略称:えらてん)という名前はネットのハンドルネームで、雑にラベリングしたくはないのだが、宗教系動画などで知られるようになった中堅YouTuberである。私のブログを読まれる方には馴染みがないかもしれないが、サブチャンネルでのメンタリストDaiGoやN国への容赦のない口撃で話題を呼んでいる。いわゆる物申す系YouTuberとは違う。なんというか、もっと複雑で、なんというかピュアな感じだ。

動画を観たことのない人にそのキャラクターを伝えるのは難しいが、話しぶりはロジカルでありながら、独特のユーモアがある。扱う題材は社会性が高く、基本的に野蛮さはなく(辛辣だけど下劣さがない)、気取ったところもなく、玩具を見つけた子どものように愉しそうに毒を吐いていたりする。やはり説明するのは難しい。複雑な人だ。炎上商法と見る人もいるが、それはまったく違うと思う。欺瞞を見つけたら噛みつかずにいられない、そういう衝動性を感じる。(あくまで私個人の見方ね)

なかなか難解なメンタリティに思えるし、癖の強いキャラクターではある。でも、根っこの部分の崇高さや家族への愛情などが動画から伝わってくるし、見ていて不思議と気持ちが和む。嫌いなものや許せないものが私と少し似ているのかもしれないが、共感できることも多い。(嫌いなものが共通しているのって、好きなものが共通しているより大事でしょ)

YouTubeに明るくない私だが、大人が見れる数少ない配信者の一人と思ったりもする。起業コンサルでもあり、えらいてんちょうという名の通り、複数のイベントバーの経営者でもあるらしい。

よく行く書店のビジネス書コーナーでえらてん本はとても目立っていて、すぐに見つけることができた。

「静止力」は、ホリエモンに代表される多動力へのアンチテーゼであり、容易に移動などできない社会的弱者に向けて、健康で文化的に生きるため地元に根付くべきと提案している。

次から次へと欲求のままに境界を飛び越え、移動を繰り返す多動力。それは若い時期限定の力であり、彼らが信奉する極端な合理性の悪影響も大きいと説く。ホリエモン的思考は子どものワガママ、それに踊らされるべきではない。社会を支えているのは真面目な大人たちであり、皆がホリエモンなら日本は崩壊してしまうと明言している。インターネットの普及で人間関係が希薄になった今こそ、地元の名士になるチャンスではないかと。この本では、地元の名士を「見習い」から「S級」までランク分けして、それぞれの条件を解説している。

正直、私は地元の名士を目指すタイプではない。それは、自分自身の性格や志向から適していないと直感的にわかるからだ。ただ、著者のユニークな発想転換には惹かれるものがある。物事を人と違うアングルから見ようとする意思、独りぼっちになっても平気な顔で逆方向に歩いていける気概、それはピュアネスを保つための重要な要件のように思える。話が本の主旨から逸れてしまったが、良い意味でつむじまがりであり続けたい、そう改めて思ったりした。(もちろん、えらてん氏には知見もある)

近頃、有名Youtuberたちの動画を観ていると、金儲けに走っているなぁと感じる。好きなことで生きるはずが、考えているのは再生数のことばかり。でも、えらてん氏は少し違う。簡単に咀嚼できない芯のようなものがあり、YouTubeでの広告料になびかない強かさを感じる。(経営が本業と考えているからかな) そういう人の書いた本だから面白い。自分の言葉で生きている人の話はやっぱり面白いよね。

私はえらてん氏が好きだし、今最も目が離せない人である。

「人は、なぜ他人を許せないのか?」 中野信子