「言葉は凝縮するほど、強くなる」 古舘伊知郎

「言葉は凝縮するほど、強くなる」 古舘伊知郎

昔、カナダのモントリオールで古舘伊知郎氏を見かけたことがあった。私はサインを求めるのも野暮だと思い、軽く会釈した。(実況が大好きでリスペクトしていたので自然と頭を下げていた) 若造の私に対して、小さく頷いて返してくれた。兄貴っぽいなと感じたことを、昨日のことのように覚えている。

「言葉は凝縮するほど、強くなる」はしゃべりのテクニックを紹介したハウツー本と言ってよいかと思う。12年間続けた報道ステーションを自ら降板してバラエティの世界に戻ってきたが、自身のトークスタイルが時代とズレていると気づく。番組が打ち切りになったことまで正直に書いている。

「浦島太郎のようだった。一気呵成のしゃべりは、今のテレビに向いていなかったのだ」

現在のテレビ界は、瞬間的に気の利いたことや面白いことを端的に言えるタレントが重宝される。マシンガントークの古舘氏は、凝縮されたフレーズを考える必要に迫られる。そこで、この本が生まれたというわけだ。

覚えておくと便利な実用的フレーズがいくつも載っている。まさしくものは言いようで、言葉一つで相手に与える印象はまるで違ってくる。そのことを改めて感じさせられた。

仕事でも、夫婦間でも、親子間でも、凝縮されたフレーズは効果を発揮する。同じことを言っても、許される人と怒らせてしまう人っているでしょ。コミュニケーションがうまくいかない原因って、心根よりもちょっとしたものの言い方にあるのかもしれない。

「人は、なぜ他人を許せないのか?」 中野信子