ソフト指しに思うこと。

ソフト指しとは、将棋やチェスなどでソフトの力を借りて指す不正行為のことだ。
私はチェスを指すが、ラピッドなど10分以上の持ち時間の対局でソフト指しは多いらしい。何を基準に多いとするかは難しいが、AIを使ってカンニングをしている連中が増えていることは事実で、アプリの会社だけでなく業界全体が対策を迫られている。将棋やポーカーも同じだろうが、不正行為がイージーなだけにソフト指しが横行している。
そうした不正を嫌い、まともなプレーヤーたちがブリッツなど短いゲームに移行する傾向があり(持ち時間が少ないと不正しにくい)、10分戦のチート率がますます高まっているという。アプリ側もソフト指し発見機能の精度アップに投資しているが、回避ソフトの進化もあって増殖はとめられないのが現実らしい。
少し前の記事になるが、chess.comで月間2万人弱の不正行為が発見された。2020年までに55万アカウントが強制的に閉鎖されている。55万って。。。
こうした背景から、不正行為の被害妄想も問題になっている。相手が強い手を指すと、「ソフトか?」という疑念を抱いてしまう。一手が早いと「怪しいぞ」といぶかってしまう。オンラインでは相手が見えないだけに余計に妄想が膨らむ。
実際、重要な手だけにカンニング(通称「部分指し」)をされると発見は難しいだろう。不信感を抱きながら対局するくらいならコンピュータと対戦している方が健全といった声も聞く。プロの世界ではより深刻で、完全な防止策がない現在、プロプレイヤーの間でオンライントーナメント自体の評価が下がっているという。
なぜ、ソフト指しは減らないのか?
勝ちたい。周りにだれも居ない。法に触れるわけでもないし、ちょっとくらい気づかれないだろう。コツコツ勉強を積み重ねることなく、汗をながすことなく易々と最強になれる。そうやってインチキに手を染めてしまう。
AIの力で勝って嬉しいの?と普通は思うが、その魔法にも似た効果を脳が味わってしまうと、悪魔の囁きに抗えなくなってしまうのかもしれない。中には相手に屈辱的な思いをさせたいだけの卑劣な奴もいるだろうが、多くの人はダメと知りつつ使っているのではないだろうか。まあ、電動アシスト自転車みたいなものかもしれない。一度その快適さを体が知ってしまうと普通の自転車に戻れなくなる。(あれ、例えがおかしい?電動アシスト自転車は不正じゃないしね)
私の通っていた高校は難関高だが(自分で言うか)、同じクラスにカンニングだけで合格した奴がいた。入学後もそいつはテストのたびに不正をしていた。「見える位置に答案用紙を置いてほしい」と頼まれたことも何度かあった。そいつは万引きの常習犯でもあり、持ち物はほぼタダで手に入れていた。修学旅行中も大量の土産品を盗んでいた。(バッグいっぱい!) 努力して何かを手に入れるというプロセスが皆無な奴だった。マスコミ関係の成功者の息子でイケメンだったが、魚のような濁った目をしていた。卒業してから一度もそいつには会っていないが、おそらく幸せにはなっていないだろう。そんなことわからないだろと思うかもしれないが、なんとなくわかる。ソフト指しのことを考えていて、ふとそいつの顔を思い出した。
不正行為に対して永久追放のような厳罰化を望む声は少なくない。対策がなければ無法地帯になってしまうが、そういう連中は今後もいなくならないだろう。チェスで一番楽しい瞬間は、ヒリヒリするような頭脳戦をどうにか勝ち切れたときではないだろうか。充足感に充たされる「ふぅー」というあの感覚は、ソフト指しでは絶対に得られない。それって、ある意味で厳罰のような気がする。
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