「夜の精」 ジャック・ロンドン

このブログを読んでくださっている方に一つ質問したい。

問:あなたはどちらの人生に価値を感じますか?

A.  たとえ短くても、生気を漲らせ精力的に生きる。

B.  細くとも、ゆるやかに大人しく長生きする。

「夜の精」(原題:The Night-Born)は、ただ漫然と生きることを嫌い、激しく攻め抜いた作家による、“怠惰な人生への嫌悪”を描いた短編だ。

ジャック・ロンドンは、20代、30代の男性が絶対に読むべき作家だと思う。逆に組織に隷属して生きてきた中年男性は読まない方が良い。

金鉱で成功して物質な豊かさを手にした実年齢よりずっと老けた47歳の男が、精神も肉体もすっかり衰え、生気を失ってしまった現実を描いた話である。物語は高級会員制クラブでの酒を飲みながらの会話によって語られる。だらしなく肥満した体で、倦怠感を漂わすこの男は、若い頃に猛烈に生きるチャンスを自ら逃している。漲るような生気をすっかり失った今、人生の選択を誤ったことへの悔恨の情にかられる。もしあの時、別の道を進んでいれば、今のような安楽で恵まれた暮らしに溺れて人生を台無しにせずに済んだのに…。ラストでこの中年男は「くそっ!臆病だったために!」と叫ぶ。

ジャック・ロンドンという人は、こうした精神の堕落を憎み、エネルギッシュに濃く生きることに生涯固執した作家だ。無駄に長く生きても意味がない。実際にロンドンは40歳で世を去っているが、壮絶なまでにがむしゃらに人生を駆け抜けた人だった。

本短編が「幻想短編傑作集」に収められていることからもわかるが、唯物論を超えたスピリチャルな関心がこの「夜の精」にも現れている。訳者解説にもあるように、この短編ではアニマ(男性生存として育成された人の心にある無意識的な女性的傾向や女性像)が描かれており、ユング心理学からの影響も大きいことが見て取れる。そのあたりを深堀りする見識が私にはないが、遠藤周作も晩年は霊的なものに傾倒していた気がする。物質的なものだけでは立ち行かなくなるのかな。

人生100年時代という言葉を近頃よく耳にするが、医療の力で長生きして、暇つぶしの娯楽で時間を埋める。それは、本当の意味で生きていると言えるのだろうか?

1876年生まれの作家だが、ジャック・ロンドンは現代人の必読書に思えて仕方がない。

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