「説明上手」 カート・ヴォネガット

娯楽小説として商品価値の高い短編だと思う。語り口が軽妙で、展開がほどよく謎めいていて、ラストであっと驚かす。ちょっとした空き時間の読み物として三拍子揃った魅力を備えている。
柴田元幸氏が「ヴォネガットはB級グルメ」と表現しているが、短編小説がエンタメとして世の中に求められていた50年代の俗っぽさが漂っている。(時代は少し違うが、フィッツジェラルドも同じ匂いがする)

「説明上手」は、不妊治療のために遥々遠方からその道の名医を訪ねていく夫妻の話である。シリアスな題材に思えるが、陰鬱なトーンで描かれてはいない。むしろ、ユーモラスでライトだ。

はじめに書いたが、驚きのエンディングが用意されている。でも、途中からなんとなく展開が読めてしまった。まあ、当時としては十分に意外性のあるオチなのだろう。いずれにしてもインパクト優先という感じで、そのあたりも純文学の色調ではない。
ヴォネガットは、読後に「あー面白かった!」とか「そういうことだったのか!」と大満足してもらえるよう、濃いめに味付けるタイプの作家に思える。オチに限らず、プロットにしても、会話にしても、読者を退屈させないぞというサービス精神にあふれている。読者のニーズに応えていたとも言えるが、もともと高尚な文学を志向していないのだろう。ヴォネガットに詳しくないので根拠もなく書いているが、ブローティガンとは真逆のタイプの作家と感じる。

未読の方は、どの短編でもよいので適当にチョイスして読んでみてほしい。ユーモラスで読みやすく、登場人物が生きていて、話の運びも絶妙で、テレビやYouTubeを観るように楽しめる。

褒めているのか批判しているのか、わかりにくい記事になってしまったが、褒めているのでそこは誤解のないように。プライドが高くていけ好かない純文学より、こうした通俗的とも言える作品の中にこそ、心を揺さぶるような大傑作があったりするものだ。

このところ忙しかったせいか、頭の回転がなんだか鈍い。ちょっと朦朧としている。週末の地方取材と打ち合わせ4連発で、かなり消耗しているようだ。無理に読書するのはやめておこう。確か、アインシュタインも過剰な読書に批判的なことを言っていた気がする。読みすぎると想像力の無い人間になってしまう的なことを。・・・それは、こわすぎる。


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