「臨界家族」 東野圭吾

「臨界家族」 東野圭吾

遅れ馳せながら、初めて東野圭吾作品を読んだ。映画やドラマになったものもおそらく一度も観たことがないので、本当に初めて触れたことになる。これだけの人気作家なので名前はもちろん知っていたが、プロ野球好きがJリーグの試合を気にかけないように、ごく自然にこれまでスルーしてきた。

「臨界家族」のストーリーをざっくりまとめると、幼い女の子のいる両親が、テレビで人気沸騰中のおもちゃを次々と買わされていく、という風刺の効いた話だ。短編集のタイトルが「黒笑小説」なので、もっと残酷で暗い内容を想像していたが、ドロドロ感はなくトーンも軽やかだった。他の短編も読んでみたが、ブラックユーモア(残酷で不気味なユーモア)というより、シニカルとかアイロニカルという感じの冷笑的なものだった。こうした味わいはこの短編に限ったものなのか、それとも東野圭吾らしさなのだろうか。

著者のテイストもヒストリーも何も知らない私が、短編をちょっと読んだだけで「この作家の作風は・・・」などとここで語るつもりはない。

短編の率直な感想だけ言わしてもらうなら「読みやすい」に尽きる。一言一句で何を感じさせようとするのではなく、重きを置いているのはあくまでプロットであり、テキストは物語を伝える手段という印象を受けた。私は読みやすい文章が基本的に好きなのですんなり受け入れられたが、日頃愛読している短編たちとはまるで違う小説なのだと強く感じた。(良し悪しでなく、ジャンルの違い)

多くの作品が映像化されている理由も何となく理解できた。固定化されたキャラクターと普遍化されたシチュエーションを積み重ねていくことで、読者の頭の中に鮮やかに映像を喚起させる文章になっている。苦労なく誰もが容易にドラマを想像できるのだ。

読書は面倒臭い、そう思っている人は少なくないと思う。テレビやYouTubeなら受動的に楽しめるが、読書の場合はそうはいかない。東野圭吾作品は、読み手にかかるストレスをできるだけ軽減するような小説を作りつづけ、若い世代の本離れを抑えている貢献者と言えるのだろう。プロだなと感じた。