「私、子猫じゃないですよ」

「私、子猫じゃないですよ」

今回も短編小説の解題でなく、先日ちょっと嫌なことがあったのでその話をしたい。

休日の爽やかな朝、自転車で閑静な住宅街を走っていたときのこと。車道に一台のクルマが停まっていた。幅の広くない一方通行の道で、クルマは大型の高級セダンだ。脇を通り抜ければよい話だが、それはできない。クルマが大きすぎるからではなく、別の理由があった。

その理由とは・・・

セダンのドアが4枚とも開いていたのだ、まるで飛んでいるカナブンのように。 まわりには誰もおらず、車内にも人は乗っていない。 一体、何をしているのだろう?

すると、そばの家の玄関からゴルフバックを抱えた爺さんが出てきた。こちらに気づいたが、気に留めていない様子だ。ゆっくりと後部シートにゴルフバッグを乗せると、なんとまた家へ戻っていくではないか。

どういうことだ?

クルマの脇は子猫がなんとか通れるほどの隙間しかなく、とても自転車では無理。勝手にドアを閉めるわけにもいかず、私は困惑していた。

少しすると、爺さんが今度はボストンバッグを持って玄関から出てきた。ゆっくりとクルマに乗せている。貫禄のある爺さん(ビフテキと酒でできた体)で、基本的に動作がのろい。偉そうな感じだ。バッグをクルマに放り込んだ後も、急ぐ気配がなかった。

さすがにこれはと思い、怒りを抑えて私はこう言った。

「閉めてもらわないと通れないので」

真っ当で自然なセリフだと自分でも思う。

 

それに対して爺さんからはこう返ってきた。

「何言ってんだ!」

What? Why? もう、何が起きたのかわからなかった。「ごめんなさい」を言えない爺さんがここにもいたのだ。とにかくその場を去りたかった。私は体を強引に傾け、相当に無理な体勢をとりながら、子猫が通る隙間をなんとかくぐり抜けた。あちこちの筋肉がつっていた。そして、アスリートのようにペダルをこぎ、一気にクルマから離れた。

100メートルくらい行ったところで振り返ると、4枚のドアはまだ全開のままで、爺さんはさらに後ろのトランクまで開けていた。メンタルが恐ろしく強い。

その時、ふと思った。

あの爺さんには、私など本当に子猫に見えたのかもしれない、と。