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ブルース・スプリングスティーンと文学

ブルース・スプリングスティーンと文学

今回はちょっとイレギュラーではあるが、ブルース・スプリングスティーンと文学というテーマにした。ブルース・スプリングスティーン=ボーン・イン・ザ・USAというイメージで止まってしまっている方に、現在どういう活動をし、どういうポジションにいるアーティストであるのか、あえてここでは説明しない。思い入れが強いため、簡潔に語ることはできそうもないので。

2016年に出版されたブルース・スプリングスティーン初の自伝「ボーン・トゥ・ラン」は、自分にとってはバイブルと呼べるほどに重要なものになった。上下巻とボリュームはあるが、心に響いた箇所を繰り返し読み、その度に大きな発見がある。容易に解決できないさまざまな悩みを抱え、もがき苦しみながら、医者と薬に頼りつつ、どうにか生き延びてきた日々がそこに語られている。

「自分自身について書くことは、奇妙な体験だ……しかしこの種の企画では、執筆者はひとつ約束をすることになっている。読者に自分の心の内を明かすという約束だ。だからおれはこの本の中で、そうしようと心がけた」(本文より抜粋)

この自伝は7年の歳月をかけて執筆したという。ゴーストライターではなく、本人が思いを込めて一語一語綴っている。(どうしてそう断言できるのか、それは読んだ人なら分かる) あれだけのトップ・アーティストが、苦悩の日々を送ってきたことに、そして誠実にそれを語ることに、読み手は大きな力をもらえる。これは自伝を超えた自伝だと個人的には思う。「ボーン・トゥ・ラン」についてはまた別の機会に書くとして、今回はブルース・スプリングスティーンと文学について少し紹介しようと思う。

2014年のインタビューで、スプリングスティーンは小説について次のように語っている。

Who is your favorite novelist of all time?

I like the Russians, the Chekhov short stories, Tolstoy and Dostoyevsky. I never read any of them until the past four years, and found them to be thoroughly psychologically modern. Personal favorites: “The Brothers Karamazov” and, of course, “Anna Karenina.”

お気に入りの作家を訊かれ、ロシアの作家が好きでチェーホフ、ドストエフスキー、トルストイと答えている。この答えに以外と思われる方も多いだろうが、スプリングスティーンのファンからすれば「なるほど」「やっぱり」といった感想を持つのではないだろうか。

The last book that made you cry?

Cormac McCarthy’s “The Road.”

最近、泣いた小説は?という問いには、コーマック・マッカーシーの「ザ・ロード」と答えている。恥ずかしながら、私も読後に号泣した。30分くらい涙が止まらなかったほどで、そんな読書体験は生まれて一度もない。

 

米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューでは、「お気に入りの小説30冊」を挙げている。

Bruce Springsteen’s 30 favorite books

Moby-Dick by Herman Melville

How to Live: Or A Life of Montaigne in One Question and Twenty Attempts at an Answer by Sarah Bakewell

Lonely Hearts of the Cosmos: The Scientific Quest for the Secret of the Universe by Dennis Overbye

Love in the Time of Cholera by Gabriel García Márquez

Anna Karenina by Leo Tolstoy

Leaves of Grass by Walt Whitman

The History of Western Philosophy by Bertrand Russell

Examined Lives by Jim Miller

American Pastoral by Philip Roth

I Married a Communist by Philip Roth

Blood Meridian by Cormac McCarthy

The Road by Cormac McCarthy

The Sportswriter by Richard Ford

The Lay of the Land by Richard Ford

Independence Day by Richard Ford

A Good Man Is Hard to Find and Other Stories by Flannery O’Connor

Mystery Train: Images of America in Rock ‘n’ Roll Music by Greil Marcus

Last Train to Memphis: The Rise of Elvis Presley by Peter Guralnick

Chronicles by Bob Dylan

Life by Keith Richards

Sonata for Jukebox by Geoffrey O’Brien

Soul Mining: A Musical Life by Daniel Lanois

Too Big to Fail by Andrew Ross Sorkin

Someplace Like America: Tales from the New Great Depression by Dale Maharidge

The Big Short by Michael Lewis

The Brothers Karamazov by Fyodor Dostoevsky

Great Short Works by Leo Tolstoy

The Adventures of Augie March by Saul Bellow

The Wonderful Wizard of Oz by L. Frank Baum

以前から、何度も影響を受けたと語っていたジェイムズ・ケインやジム・トンプソンといったクライム・ノヴェルが入っていないのがちょっと意外だったが、フラナリー・オコナーの「善人はなかなかいない」やコーマック・マッカーシーの「ブラッド・メリディアン」が入っているあたりは「らしい」感じもする。ハーマン・メルヴィルはボブ・ディランも愛読している作家だ。

ベスト30を見る限り、とてもハードな小説が多い気がする。洗練やスマートさと縁遠く、容赦がなくて赤裸々で骨のある激しい小説が多い。自分の中に流れる父親の血、医療の助けを借りなければ生きられぬ鬱を抱えた日常。心に複雑な闇や消しようのない過去を抱えたスプリングスティーンは、それらを受け入れて生きる強靭さを小説に求めてきたのかもしれない。

簡単にまとめてしまうのが嫌で、とりとめのない話になってしまい・・・ごめんなさい。

ボーン・トゥ・ラン 上: ブルース・スプリングスティーン自伝
ボーン・トゥ・ラン 下: ブルース・スプリングスティーン自伝