「バターより銃」 カート・ヴォネガット

「バターより銃」 カート・ヴォネガット

第二次世界大戦でドイツ軍に捕虜として捕らわれた3人のアメリカ兵の話である。この3人は四六時中、食べ物の話ばかりしている。料理のレシピをマメにメモまでとる。3人を監視しているドイツ人のクラインハンス伍長がこれまたゆるい感じの男で、士官が見回りに来た時だけ働いているふりをしていればいいと言う。寝ても覚めても食べ物の話しかしない3人に、とうとうクラインハンス伍長は我慢できなくなる。そして…

という話だ。ユーモラスで、味わいがあり、締め方のセンスが良い。

よく知られたことだが、著者のヴォネガットは第二次世界大戦中、バルジの戦いで捕虜としてドイツ軍に囚われている。英米による地獄のドレスデン空爆を体験し、死体を集める仕事までさせられている。ヴォネガットら米国人捕虜たちは、屠畜場地下の肉貯蔵室で激しい爆撃を凌いだ。その建物がのちに長編となるスローターハウス5(第5屠畜場)である。

想像を絶する戦争体験、捕虜体験は、他にいくつもの作品のベースになっている。
「バターより銃」で、ヴォネガットは目の当たりにした生き地獄をリアルに描いてはいない。喜劇に包み込み、人間の愚かさを浮かび上がらせている。戦争は著者にとって男のロマンチックな憧れなどでなく、ゲームでもなく、残酷な殺戮でしかない。現場の異様な惨劇を知る人間には、とても美化できる世界ではないはずだ。しかも、ヴォネガットの母親は彼の従軍中に自殺している。
ヴォネガットがインタビューを受ける映像をYouTubuで観ることができるが、柔らかく、偉ぶらず、愉快で、奥深い人に思えた。絶望せず、愛を持って書き続けた作家。敬愛する人が多いのも当然だと思う。

 

「バターより銃」は最近では全4巻のコンプリート短編集の1巻に収められている。1冊だけで約3千円。既出作品が多く購入するか悩ましいところだが、未読の人には最高に価値ある買い物になるだろう。
人生に何か足りないと感じている人は、たぶんヴォネガットが足りないのでしょう。あなたを幸せにしてくれる本ですよ。さあ、買いましょう!(無責任なセールストーク)
図書館で借りても良いので、とにかく読みましょう!

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