「知っていて知らない人」 トルーマン・カポーティ

初期短編集に収められたホラー調の一篇。

若い紳士の姿をした死神が、老女のもとへ訪ねてくる。老女はまだ死にたくないと必死に拒絶する。その時、黒人のメードが帰ってきた。ドアの音でハッと我に返る。若い紳士の姿はどこにもない。ただの悪い夢だったのだろうか、それとも…。

まあ、いかにもカポーティらしいダークファンタジーだ。ただ怖いというのでなく、妖艶さが漂っている。そこもまたカポーティらしい。

「知っていて知らない人」は10代後半に書かれた短編のようだが、カポーティは11歳からその気になって小説を書きはじめたという。

「その気に、というのは、ほかの子が学校から帰ってバイオリンやらピアノやらの練習をするようなもので、僕は帰ってから毎日三時間くらいは書いた。夢中になって書いた」(カポーティ)

やはり、そういうことなのね。

村上春樹氏はあとがきで、カポーティはモーツァルトとよく似ていると書いている。二人とも周りの誰もが認める神童であったと。

神童と呼ばれるような選ばれた人だけが到達できる高みがあるのだと思う。「誕生日の子どもたち」や「ミリアム」ほどの完成度には達していないが、初期短編集の作品群では神童の感性と技術を堪能することができる。


ここから世界が始まる: トルーマン・カポーティ初期短篇集

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