「第四解剖室」 スティーヴン・キング

久方振りのキング作品。ほとんど予備知識がないため、「全米百万部の傑作短編集」という売り文句だけで何となく手に取った。姉妹本である「幸運の25セント硬貨」に収録された短編はいくつか読んでいたが、正直なところ“キングらしさ”もよくわかっていないビギナーである。(思った以上に作風が多彩で、どれが“キングらしい”のかつかめていない)

「第四解剖室」という短編は、既に死亡していると医師たちに誤解され、解剖されそうになるという寸止めサスペンスである。筆にまかせて自由に書いたのであろう闊達さがある。作品全体が、(良い意味で)趣味の悪いジョークといった感じだ。

とにかく医師たちを卑しく卑猥に描いている。何か個人的な恨みでもあるかのように、最低な人種として描いている。それでも、読んでいてどこか優しさを覚えるから不思議だ。語り手の中年男性のリアルな肉声が聞こえてくるような文体で、小さなことにはこだわらない線の太い魅力がある。笑いの成分が濃いというのもあるが、怖いというよりは温かいと思った。こういう野太さは嫌いじゃないので、ちょっと癖になりそう気がしている。

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