「ファクトリー」 ブルース・スプリングスティーン

「ファクトリー」 ブルース・スプリングスティーン

今回は少し気分を変えて、短編解題ではなく大好きなブルース・スプリングスティーンの曲の歌詞を紹介したい。どのくらい好きかというと、数年前にブルースの故郷ニュージャージーへ行ったほどで、ゆかりの地であるアズベリー・パークもひとり歩いてきた。(まあ、その程度のことはブルースファンであれば特に珍しくもないのだが・・・)

今回、拙い英語力で訳してみた曲は、古典とも呼べる「ファクトリー」(原題:Factory)。1978年のアルバム「闇に吠える街」(原題:Darkness on the Edge of Town)に収められた静かな名曲だ。2010年に発表されたボックス・セット「闇に吠える街~ザ・プロミス:ザ・ダークネス・オン・ジ・エッジ・オブ・タウン・ストーリー」に入っているパラマウントシアターでの無観客ライヴ映像と共に歌詞を読んでいただければ嬉しい。

 

朝早く、工場の汽笛が鳴る。

男はベッドを出て、服を着る。

昼飯を手に朝陽の中を歩いていく。

働く、働く、 働くだけの人生。

 

そびえる恐れと苦痛。

雨の中、ゲートをくぐる父親が見える。

工場は聴力を奪い、代わりに生活の糧を与える。

働く、働く、 働くだけの人生。

 

一日の終わり、終業の汽笛が響きわたる。

疲れ切った目の男たちがゲートから出ていく。

今夜、誰かがきっと辛い思いをする。

働く、働く、 働くだけの人生。

 

Early in the morning factory whistle blows,
Man rises from bed and puts on his clothes,
Man takes his lunch, walks out in the morning light,
It’s the working, the working, just the working life.

Through the mansions of fear, through the mansions of pain,
I see my daddy walking through them factory gates in the rain,
Factory takes his hearing, factory gives him life,
The working, the working, just the working life.

End of the day, factory whistle cries,
Men walk through these gates with death in their eyes.
And you just better believe, boy,
somebody’s gonna get hurt tonight,
It’s the working, the working, just the working life.

 

この曲の肝は、三番の歌詞「今夜、誰かがきっと辛い思いをする」にあると思う。ここがすべてと言ってもいいかもしれない。ファンであれば、ブルースの父親が家庭内でどういう状態だったかについては説明不要だろう。(ピンとこない人は自伝「ボーン・トゥ・ラン」の一読を)

この簡素とも呼べるパラマウント・シアターでの演奏で、somebody’s gonna get hurt tonightの箇所でブルースの目に薄っすらと涙が浮かんでいるのがわかる。無観客ライヴだからこそ、演奏に集中でき、歌詞の中に入り込むことができたに違いない。このライブはファンの間でさえ忘れられているかもしれないが、近年のブルースのベストライブの一つだと個人的には思う。

「今夜、誰かがきっと辛い思いをする」

このフレーズを歌う瞬間、ブルースは自分のことだけでなく母親や妹のことを頭に浮かべ、そして父親の心の痛みに思いを馳せ、自然と涙を浮かべたのだろう。ファクトリーという曲の真実が持つ深み、重みに加えて、たとえ何千回歌ったとしても、その度に100%心を込めて歌うというプロ意識にも心を打たれる。何千回聴いても心を打たれる。

 

闇に吠える街~The Promise:The Darkness On The Edge Of Town Story(DVD付)

ボーン・トゥ・ラン 上: ブルース・スプリングスティーン自伝