「賢者の贈り物」 オー・ヘンリー

「賢者の贈り物」 オー・ヘンリー

皆さんは、オー・ヘンリーにどのようなイメージを持っているだろうか?

それはもう19世紀のとても偉い文豪で、その名が有名な文学賞にまでなっているくらいだから、教科書に載るような道徳的にも素晴らしい心温まる名作を残していて・・・といった感じだろうか。

残念ながら違う。何が残念なのかわからないが、かなり違う。というか、まるで違う。実際は博打にまみれ、事業に躓き、30代半ばで銀行の金を横領した疑いで起訴されている。しかも裁判へ向う途中、病気の妻と娘を残してなんと逃亡。妻危篤の知らせを受けてとりあえず戻り、保釈金を支払い看病したものの、その甲斐なく先立たれてしまう。翌年、懲役5年の有罪判決が確定した。

模範囚であったため、刑期より早く出所する。ピッツバーグで娘と暮らしはじめるのだが、一年も経たずに娘を置いて単身ニューヨークへ移住してしまう。

数年後に再婚し、娘を新居に呼び寄せて一緒に暮らし始める。ようやく落ち着くかと思えたが、翌年には酒の飲み過ぎで家族崩壊。それでも飲み続け、47歳で肝硬変のため帰らぬ人となる。

ほら、イメージと違うでしょ。しかも、どれも自分で蒔いた種だ。短編の名手などと称されるが、服役中に刑務所で密かに書いて出版した作品も多いらしい。(それ自体も違法行為)

オー・ヘンリーという名前も本名ではない。諸説あるらしいが、オハイオ州立刑務所のOだとか、強盗の名前から取ったとか、いずれにしてもBad Boyの発想だ。

こうして事実を書き並べると懲りない男にしか思えないが、辛い境遇に生まれ育った苦労人ではある。父親が仕事をしないアル中の医者で、叔母の手で育てられた。高等教育を受けられず、若い頃から職を転々とし、駆け落ち同然の結婚をしたという。妻と娘への罪の意識や懲役のはずかしめを受けたことで、奮起して創作に打ち込んだという一面もある。波乱万丈というか、不遇というか、いろいろ心に抱えていた人のようだ。

「賢者の贈り物」は、貧しい夫婦のクリスマスプレゼントにまつわる皮肉な話だ。お互いにプレゼント代を作るために、自分の大切な宝物を売ってしまう。それぞれ手にした金で、豪華な贈り物を買う。しかし、その贈り物は、売ってしまった宝物がなければ意味をなさない品物だった。

ウイットに富む軽妙な語り口で、なんとも哀しいクリスマスを、落語のような小話にまとめあげている。とてもペーソスにあふれていて、ソ連でかなり人気があったというのも頷ける。

オー・ヘンリーを読んでいて、ある作家を思い出した。レイモンド・チャンドラーだ。けっして直球を放らない技巧派であり、ひねりの効いたシニカルな言い回しに共通したものを感じる。オー・ヘンリーの方が庶民的な題材を選ぶが、アルコールに溺れた晩年もどこか似ている。繊細でプライドが高い人は、どうしても飲まずにいられないのかもしれない。

オー・ヘンリー傑作選 (岩波文庫 赤 330-1)